11月30日、動物の法と政策研究会主催で第1回目となるセミナー「猫でトラブらない街づくり」を開催しました。
当日は、関西圏だけでなく、遠方からも多くの方にお越しいただき大変有意義なセミナーとなりました。お越しいただきました皆さまには心より御礼申し上げます。
動物と法の政策研究会 会長 細川敦史
当研究会は、『ペット六法』を編纂された吉田眞澄先生(前代表・元同志社大学教授、元帯広畜産大学副学長)の呼びかけにより、2016年4月1日に正式発足しました。現在のメンバーは、弁護士、獣医師、行政書士、市会議員、大学教員、動物愛護団体関係者など20数名で構成されています。
当研究会は、これまで動物愛護管理法の改正において、いわゆる8週齢規制の経過措置の撤廃に関する意見書や、第一種動物業者が遵守すべき動物の飼養管理基準に関する意見書を国会の動物愛護議連や環境大臣に提出したこともあります。
今回のセミナーのテーマは、各地で猫の活動をするメンバーがいることもあり、飼い主のいない猫「野良猫」としました。動物愛護管理法で、猫は愛護動物と定義されています。飼い猫は、飼い主が責任を持ち終生飼養することが法律に明記されています。一方、飼い主のいない猫は、捕獲され自治体に持ち込まれて殺処分、という時代がかつてはありましたが今はそのようなことはありません。ただ、外で生きている猫をどのように取り扱うのかは、附帯決議や環境省の基本指針には触れられていますが、法律そのものにはありません。そのため、自治体によって対応がさまざまです。
今回、素晴らしい講師の方々から報告・講演を行っていただきます。参加者の皆さまも全国各地からお越しいただいております。本日の内容を、ぜひ皆さまの地元での活動にいかしていただければと思います。
公益財団法人動物環境・福祉協会Eva 代表理事、当協会研究員 杉本彩
これまで、研究会発足当初から会議に参加し、問題や課題を共有しています。なかでも猫の問題は後をたたず、解決に至るまでは時間と労力がかかり人の問題そのものだと感じでいます。
他にも一般飼い主の不適切飼養の問題もあります。飼い主の意識向上、猫でトラブらない街づくり、そういったことにフォーカスして、今日は一緒に学んでいきたいと思います。
伊東大輔様(京都動物愛護センター所長)
京都動物愛護センターについて
収容猫の実情
所有者不明子猫の収容頭数を減少させられる対策が必要
<平成22年度~まちねこ活動支援事業>
活動1~2年目では、新たに野良猫の存在を把握するなど、頭数が増加した地域もみられが、3年目になると猫が減少した地域が増加。活動6年目以降では猫が減少した地域は100%となり、一定期間、活動を継続することが地域の野良猫の減少につながることが分かった。
宮崎 誠(当研究会員・猫部会会長)
当研究会が2023年11月〜2024年2月に実施した行政アンケートは、環境省がホームページに掲載している「全国地方自治体(都道府県、指定都市、中核市)の動物愛護管理行政担当組織一覧」に掲載されている計129箇所を対象とし、119箇所から回答を得た。
中でも「団体譲渡の条件を具体的に教えてください。」という質問に対する各動物行政の回答のうち、神戸市の回答が実に11項目に渡り譲渡基準が決められていた。昨今、全国的に問題となっているボランティアグループの多頭飼育崩壊を予防するためにも、神戸市の厳しい譲渡条件をぜひとも参考にし、予防対策に努めていただきたい。
西山ゆう子(当研究会員・獣医師)
不妊去勢手術には2種類ある。
1つは「通常の不妊・去勢手術」と呼ばれるもので、一般の開業獣医師が、主として通常の飼い犬、飼い猫に対して行うもので、これは広く一般的な手術方法で行われているもの。獣医大学でも学生に、この一般的な方法を教えており、学生はまずこの方法を学ぶ。
もう一つは、High Quality High Volume Spay Neuter (HQHVSN)と呼ばれているもの。複数の犬猫に、速いスピートで行う不妊・去勢手術のこと。米国では以前は、Low Cost Spay Neuter
(低料金不妊・去勢手術)と呼ばれていたが、今ではHQHVSNという言葉に変わってきている。これは通常の不妊・去勢手術より安価に行う手術である。一般にはすでに不妊・去勢手術の手技を取得した獣医師が、さらに専門の手技を学んで行われる。手術自体の技術に加えて、動物看護師とのチームワークによってスムーズに早く手術を行っている。
さらに、HQHVSNクリニックで 、多くは不妊・去勢手術以外の臨床は行わず、よって不妊・去勢手術以外に必要のない医療機器、薬品や備品なども最低限にし、またスタッフの労働時間も短時間にしぼるという経営方法で病院コストを押さえていながら手術自体の質は高レベルに維持している。
HQHVSNクリニックは、野良猫のTNR手術も行うが、一般の飼い犬、飼い猫にも低料金で行っており、TNR専用クリニックではない。主に低所得者、高齢者、動物愛護団体が多く利用している。アメリカでは自治体がシェルター(センター)施設内にHQHVSNサービスをしたり、また個人の獣医師がこのタイプのクリニックを開業することもある。HQHVSNクリニックは、不妊・去勢手術に特化した専門病院と言える。日本の場合、通常料金で行う不妊・去勢手術に行政が助成金を出すことが多いが、このような低料金クリニックにより、助成金制度がなくても一般の犬猫や多くの野良猫に不妊・去勢手術が普及できるだろう。
高木優治様(元新宿区保健所職員)
なぜ地域猫対策が盛り込めたのか?
<質疑応答>
Q.
猫のトラブルになっている地域に介入しているボランティアです。地域猫活動をしたいが、土地の所有者、町会の理解が得られず餌場が無くなってしまう。町会に話しているが、「餌をやらなければ猫はいなくなる」と主張して話が進まない。元々10匹居た野良猫をTNRしてあと8匹だけだが、理解してもらえない。行政が協力してもらいたいが、地域猫の条件はトイレの設置が必要となっており、ハードルが高い。
A. 苦情解決は行政の仕事。猫のトイレは立派なものを作らなくていい。プランターと砂で十分、猫が分かればいい。活動報告をきちんとチラシにして、地域住民に周知していくこ とが大切。チラシは「地域猫を守る」というよりも「野良減らすために頑張っているんです」という対策の趣旨が伝わると理解されやすい。必要であれば、2人体制で一軒ずつピンポンして説明するのも有効です。
Q. 行政は反対の人が居ると、中立だから対応できないと言われてしまう。どう思いますか?
A. 「反対」と抽象的に言わず、「何が、なぜ、嫌なのか」を具体的に把握することが第一 歩です。そのうえで、話し合いをするようにしてみてください。
中村三之助(当研究会員・前京都市会議員)
本日は、ご参加いただいた方々が、2時間半も集中して話を聞かれていて、皆さまの問題意識の高さに感銘をうけました。
私は、これまで京都動物愛護センターの設立に向け、京都市会海外行政調査団の団長として、ベルリン、パリ、ロンドンの海外視察もしました。
今後も多くの問題を皆さまと共有したいと思います。本日はどうもありがとうございました。
展示作品:どうぶつたちへのレクイエム、赤ちゃんネコのすくいかた
第二部は、立食パーティー式で参加者同士やゲスト、研究会メンバーとの交流会を行った。
前半は、細川会長司会のもと、参加者をランダムに指名し、自己紹介をしていただいた。北海道や群馬県など、遠方からの参加者もおり、獣医師や行政職員、弁護士、個人活 動ボランティアなど所属の幅も広い交流会となった。